ある製造業のお客様から相談を受けたときのことです。「議事録AIを入れたのに、誰も見返さないんです」と言われました。録音を全部文字にしてくれるツールを導入して、満足していたそうです。でも、議事録を開いたら、発言がそのまま流れているだけ。誰が何を決めたのか、次に誰が何をするのか、どこにも書いていませんでした。
これ、AIが悪いんじゃないんです。書式を決めずに入れたのが原因です。私は展示会支援の現場で、商談後の議事録を毎回書いてきました。正直、地味な作業です。でもこの地味な作業の型がないまま便利ツールを入れると、便利になるどころか作業が増えます。
議事録AIは「聞き取る係」であって「考える係」じゃない
議事録AIがやってくれるのは、話した内容を文字にすることです。それ以上でも以下でもありません。誰が決裁者で、いつまでに何をするのか、次回の商談日はいつなのか。ここを整理するのは人間の仕事です。
TSUNAIDEでは、成果を名刺の枚数ではなく「次回商談の日程を確定できた件数」で見ています。だから議事録も、次回日程が書かれているかどうかが一番大事な項目になります。ここが空欄のまま議事録AIを入れても、空欄が量産されるだけなんです。
書式を決めるとは、具体的に何を決めることか
私が現場で最低限決めているのは、次の4つの欄です。
1つ目は「決まったこと」。2つ目は「次回日程(確定/未確定)」。3つ目は「相手の温度感」。4つ目は「こちらの宿題」です。この順番で、この4項目だけは埋める、というルールを最初に決めます。
特に大事なのが「次回日程」の欄です。ここを「後日調整」で終わらせるか、「◯月◯日14時で仮押さえ」まで書けるかで、商談の進み方がまったく違います。だから商談の最後に、こう聞くようにしています。
「ちなみに、次にお話しするなら再来週あたりでいかがですか。仮で押さえておきましょうか」
この一言を言えるかどうかが、議事録の質を決めます。AIがどんなに賢くても、この質問を発言データの中に見つけて拾ってくれるわけじゃありません。営業側が聞いて、営業側が書式に入れるんです。
判断の分かれ目:どこまで人が見て、どこからAIに任せるか
ここが一番現場で迷うところだと思います。私は次のように分けています。
会議の「発言内容の要約」はAIに任せます。文字起こしから要点を抜き出す作業は、時間がかかるわりに正確さが求められるので、機械の方が向いています。
一方で「次回商談が確定したかどうかの判定」は、必ず人間が最終チェックします。なぜなら、お客様が「また連絡します」と言った場合、これは確定なのか未確定なのか、AIには判断がつかないからです。社内の温度感を知っている営業本人が「これは実質、流れた案件」と判断できないと、確定してもいない商談を確定扱いにして、後で慌てることになります。
当社のAI開発案件では、試作から本番運用まで進んだ割合は82%です(当社支援案件・2026年時点の実績値)。この数字が示しているのは、AIそのものの精度より、「どこを人が最後に見るか」を先に決めた案件のほうが本番まで進みやすい、ということです。書式を決めずにAIだけ入れた案件は、だいたい途中で止まります。
書式が先、AIは後。この順番を守るとテレアポにも効く
これは展示会の商談議事録だけの話じゃありません。テレアポの記録も同じです。当社が支援したある案件では、アポ獲得率が0.6%から3.2%まで上がりました(リスト設計を見直した好調案件での実績値・当社支援案件)。これはリスト設計を変えたのが直接の理由ですが、実は架電メモの書式も同時に整理しています。
「断られた理由」を一言でいいから書式に残す欄を作っただけで、次にかける相手のリストの優先順位が変わりました。これも、AIが自動でやってくれる部分じゃありません。電話をかけた本人が、断られた理由を一言に削って書く。この地味な作業を全員が続けたから、リストの精度が上がったんです。
展示会の商談化は、当社の支援では平均20件です(設計込みで支援した場合・当社支援案件・2026年時点の実績値)。この数字も、ブースでの会話が上手だったからではなく、会話の後の議事録が「次回日程」まで書ける書式になっていたから積み上がっている数字です。
実務チェックリスト
- 議事録に「次回日程(確定/未確定)」の専用欄をつくる
- 商談の最後に次回日程を仮押さえする一言を全営業で共通化する
- 「決まったこと」「相手の温度感」「こちらの宿題」の3項目をテンプレに固定する
- AIに任せる範囲(要約・文字起こし)と人が最終判定する範囲(次回確定の可否)を書面で分ける
- 断られた理由・保留の理由を一言でメモする欄をアポ記録にも追加する
- 書式を決めた後で議事録AIを試験導入し、2週間分の出力を人がチェックする
- チェック後に空欄が多い項目があれば、AIではなく書式そのものを直す
